「催情記」☆知音御きりあるべき次第
☆知音御きりあるべき次第
そうべつ(惣別)ちゐん(知音)と御やくそく(約束)からはなにもかものこさずかたりてこそまことの道なれ
さりながらいやと思ふ心も出来たらばあぢよく御きりなさるべく候
あるひは一年二年三年四年にてもいままでかやうにはなし申(もうす)うへはしゆだうのちゐんたるやくそくはかならずかならず御やぶりなさるべく候
其しさい(仔細)はたがひにきうくつ(窮屈)なものじや
われ人生身なればされこと(戯言)もいひ人中にねつおきつ(寝つ起きつ)もせねはならず
さ候へはとがなきわれらにもつるかてき心くるしくおぼしめし候へばそのごとくわれらも貴様よそにてわか衆たちの御ざしき(座敷)につらなり(連なり)ござあると聞
又はわか衆よりあひの所にてなにとなくよその御めくせをみても心もとなくこころをなやましかほ(顔)にもみち(紅葉)をちらし候事もよしなし
たがひに(互ひに)とがなくしてみることきく事にまよふならひも候へばもしあひだもあしくなればたけぬ事ぢやいま(今)よりしゆだうのちいん(衆道の知音)ではないほどに其御心得なさるべく候
申にをよはず(及ばず)候へ共これよりはいよいよ如在なふおぼしめし候て下さるべく候などとおほせられさてまへかど(前廉:せんだって)書ものなど御とりかはし候はばそのとき御とりもどし(取り戻し)あるべく候
もし又貴様の心ににるものも候て明日にもわれらにしうしん(執心)しやなどといふ人あらば貴様ととかうのたんかう(談合)申べく候
貴様も又御心のうつるかたも候はばわれらに申かけなさるべく候
さなく候はばうらみ申などとおほせらるべく候
時ならずさやうの事を御申候へば惚れてもあるによりおほせられ候かとおもふものじやほどに前かどせいもん(誓文)を御たて候て御きかせなさるべく候
そうべつほれてもなきうちにちいん御きり候ものなり
左候へばあぢよくかたじけながり首尾よくきるもの也のちにはたがひに心中次第