「催情記」☆ねんじやをつる事
☆ねんじやをつる事
これはなをいろいろあるべく候
就中百が九十九までは能の座あるひはまひ(舞)あるひははあやつり(操り芝居のこと)わか衆かぶき(若衆歌舞伎)花見月見ふなあそび(船遊び)しゆえん(酒宴)の座しきにてそんでうその小しやう(小姓)を目とまり御らんじ(御覧じ)候
又すきや(数寄屋?)にさる御かたとある人御座候か御うら山敷候
そこにてねんじや(念者)いやべち(別)のはなしもつかまつらずとこ(床)のをとしかけ(落とし掛け)庭のうちのうへこみ(植込み)などながめてゐ候などと申べく候
左候はばいや夢だにも御ざなく候かのかたと御かたり候へとすげなく御申あるべく候
又まへかみ(前髪)のあるかたへすこしなりともしたるきふりめもと(振り目元)などいたし候はば物御申なくすげなきめもと(目元)につりさはりもかまひ(構ひ)もはらもたてず(腹も立てず)つねのふりにて御ひやしなされ候はばねんじやそのときわたくしをこの中おもしろき御ふりにて御いためなされ候さだめて人の申なしも御ざ□や
おほせきかさるべき事御座候はば御申なさるべく候
身においてあやまりあたご八まん(愛宕八幡)氏(うじ)の神ぞ御ざなく候などとせいもん(誓文)たつるものなり
にがらず(苦らず)わらはず(笑はず)つつくすんできさま(貴様)のうぢがみ(氏神)はいくたまかうそ八まんか鳥井があるか北むきかなどとてかまはぬへんじすればかのもの心もこころならずめいわくするものなり
ねんじや如在なければわるいうちにもかたじけなひものじやといぬまくら※にもあり
※犬枕
仮名草子。近衛信尹のぶただほかの合作か。慶長(1596~1615)初年成るか。「物は尽くし」を中心とする、「枕草子」のパロディー。