「催情記」☆よみかき(読み書き)の事
☆よみかき(読み書き)の事
ずいぶん御習有べし
物をかかねば(書かねば)三ぼうのすてもの(三宝の捨者※)也
先さしあたりて若衆の時はあなたこなたよりも御ふみ(文)又は哥など参るもの也
御返事なされたくおぼしめせ共物御書候はねばなに程うい事成べし
それもしやか(釈迦)かうぼう(弘法)だるま(達磨)日れん上人(日蓮上人)定家ほどかく共御心中あしければいらぬもの也
とかくとかく人の心中をよく御みつけなされほれた(惚れた)ものにはかならずかならず御はなし有べく候
それをそのまま御をき候事などは第一むごき事共也
かならず有まじき事なり
右の書つけのとをり(通り)は人のをしへ(教へ)によらず心のいたるといたらざるがいたすところ也
いかにその道をしり候ても此道にあたりつけぬ人の心ざしはみじかし
なにはのうら(難波の浦)のよしなし事なり共そこはかとなく山野河海をめぐらし人の心根よくしるがかんようなり
げにやおしみ(惜しみ)てもかへらぬはいにしへ(古)とまらぬ(止まらぬ)は光陰なり
うばたまのよる(夜)にもなれば久かたの月をながめ(眺め)ねやもる(閨漏る)月をきみ(君)と思ひあかしのうら(明石の浦:思い明かすと明石を掛けている)をばいづるは□さんやとひとりこがるる(焦がるる)身などをあはれと思はぬ人はたまたま此かい(界)へしやう(生)をうけことにかたちあてはかに生れてもそのこころもち(心持)なき人はたまのさかつき(玉の盃)のそこ(底)なき心ち※ぞすべきとつれづれ(徒然草のこと)にもありこの道にこころえたる(心得たる)人はをかしく御座候はん
しかありながらはじかみの手※のべかくなん
明暦三年 極月吉日
※1 仏・法・僧の三宝に見放された者。転じて、役に立たない人。
※2 玉の杯底なきが如し
外見は美しくりっぱでも、実際には役に立たないもの、また、重要なところに欠点のあるもののたとえ。『韓非子』
※3 薑の手でケチという意味か?
「催情記」これで以上になります。
終わり。