「催情記」☆ふろ入の事

☆ふろ入の事

 

ふろ(風呂)へいるときは行共?なくともせつちん(雪隠)へ御ざれ

それはなぜに

ふろへいり又躰あたたかになれば思ひもよらぬけが(怪我)の人によりてあるものじやと人がいふた

又やうじ(楊枝)をつかひした(舌)をかき湯をかかりさて小ふろ※へ入べし

うちにては内と申かねてゐるものもをすをす御手へさはるものぢや

ひごろふしんにおぼしめすものならばところは天下一なり気を御つけ候て引よせ(引寄せ)いかにもしたのね(舌の根)のぬくるほど口を御すはせ(吸わせ)なさるべく候

かたじけなき事身にあまるものなり其事ばかりにても御用にたつものも有べし

また申におよはず候へどもかねてほれたもの入あひ候はばいよいよ御気をつけられ御口を御すはせかんようなり

われ人それを心にかけているものなれば御気つかねばことのほか(殊の外)うらみ出来ものなり

又大かたに候へば思はずともだきつく(抱き付く)ものなり人おほければかたじけなし

人なけれはかたじけなし

とにもかくにもうれしからふぞ惣別わかしゆの風呂入はきれいなものじや

 

蒸風呂(むしぶろ)に付属した湯をためておく設備。転じて、蒸風呂のこと。