「催情記」☆せかせの事
☆せかせの事
知音は本より三四五度御はなしなされしものにても一度にてもたがひに心うちとけたいせつにおぼしめすならばときどきはちと御せかせもよく候
貴所はそんでうそれに御しうしんと人もいふ
とかくうき世はしれぬものじや
夜のまにかはるあすか川※1とはよくいふた
おなじ人げん(人間)にむまれてわれらはめも見えぬだうり(道理)ぢや
われらが心はひとつあり貴様は心がおほい(多い)ほどになどと御申候て御つりなさるべく候
一 せかせづり 一 なぶりづり
一 なさけつり 一はらたてつり
一 かねうちつり 一 せいもんつり
一 水のませつり 一 とんぼうかへしつり
一 水あひせつり 一 たてたしづり
惣じてつり数三百七十七つりと申せ共まづ仁明天皇のりうは十一つりなり
まことのあやまりなどあらばそれはづんと御むよう(無用)そのたんはいふにをよばず(及ばず)御ふみころし候てもたらず候
ただしほうかいりんき(法界悋気)とてわきより中をかくことも有べしさやうの事よくよく御ぎんみ(吟味)かんようにて候
中中いふはをろかなりとかくとかくぎんみたるべし
※1「世中は何か常なる飛鳥川昨日の淵ぞ今日は瀬になる」のように飛鳥川と無常を詠った歌は多い。定めなき世のたとえとされる代表選手。夜のうちに変わる飛鳥川というフレーズを前に聞いたような気もするがとんと思い出せない。