「催情記」☆病中雨中見廻(みまい)状の事

☆病中雨中見廻(みまい)状の事

 

知音はもとより二三度御はなしなされ候共かわひや(可愛や)とおぼしめすものならばなを(猶)もつての御事

さて存命不定にわづらひ候時やたけに(弥猛に※1)思ひつきそひかんびやう(付添い看病)もしたいしたいと思ひ候へ共小姓なれば法度つよく

または人のほうへん(褒貶)もかへつて病人のためなれば思ふやうにないことぢや

さながら心にるひまもなければねんりきいはをとをす(念力岩を通す)といふてつうずる(通ずる)ものじや

其うち病人に御たいめん(対面)あらばいかにもきげん(機嫌)よく病人のうれしがるやうにこまごまと御物かたりなされ候はばぎばへんじやく(耆婆扁鵲)がくすり(薬)よりきき申べく候

御状など御やり候共いつもよりこまごまとかたじけながり申候やうにあそばし候事かんよう(肝要)に候

又ざつとしたるたちわづらひはいかにもいかにもおもしろき文躰になさけ(情)をくはへ御水くき(水茎※2)のうきしづみにそさまわづらひもみづからゆへなと御かき(書き)候てつかはされ候はばなどやなどやはだのまぼり(肌の守り)にかけ申まじく候や

かんようの事是也

 

1 盛んに勇み立つさま。はやりにはやるさま

2 筆。筆の跡。手紙の文